2026年8月抄読会まとめ
御発表頂いた吉田虎士朗先生、塙先生、飯島先生ありがとうございました。
抄読会の内容を振り返らせて頂きます。
1) 伊勢崎市民病院 呼吸器内科 吉田虎士朗先生
「切除不能Ⅲ期非小細胞肺癌における化学放射線療法後のデュルバルマブ維持療法に対するPPIおよび抗菌薬服用の影響検討」
Brunetti L, et al. Differential impact of proton pump inhibitors and antibiotics on immunotherapy efficacy after chemoradiotherapy in locally advanced non-small-cell lung cancer: a post-hoc analysis of the PACIFIC trial. Lancet Oncol. 2026;27(8):1043-1056.
進行癌においてベースライン時に抗生物質やプロトンポンプ阻害薬が投与されていると、腸内細菌叢の乱れを介して、免疫チェックポイント阻害剤の効果減弱と関連することの報告です。今回は切除不能なⅢ期非小細胞肺癌において、ベースライン時の抗生物質とプロトンポンプ阻害薬の投与と無増悪生存期間および全生存期間との関連性を評価することを目的としました。第Ⅲ相PACIFIC試験は、Ⅲ期非小細胞肺癌、PS0・1であり、2サイクル以上の化学放射線同時併用療法後に病勢進行が認められなかった患者を対象に行われました。治療は化学放射線療法終了後1-42日目に、最大12か月間、2週間ごとにデュルバルマブ10mg/kgを静脈内投与する群とプラセボ群に2:1の比率で無作為に割り付けられました。患者は年齢・性別・喫煙歴によって層別化されました。主要評価項目は、無増悪生存期間および全生存期間であり、ベースラインにおけるプロトンポンプ阻害薬および全身性抗生物質の投与状況に応じて評価されました。2014年5月9日から2016年4月22日までの間に、713名の患者が無作為に割り付けられました。解析には660名が対象となり、そのうち449名がデュルバルマブを、211名がプラセボを投与されました。203名(30.8%)が女性、453名(68.6%)が男性でした。人種については、アジア系が153名(23.1%)、黒人またはアフリカ系アメリカ人が5名(0.7%)、白人が424名(64.2%)、不明が78名(11.8%)でした。660名の患者のうち、263名(40%)でベースライン時のプロトンポンプ阻害薬の投与歴が記録されており、69名(10%)で抗生物質の投与歴が記録されていました。統合集団における追跡期間の中央値は62.4(61.9-63.2)か月でした。デュルバルマブ群において、ベースライン時のプロトンポンプ阻害薬の投与は、無増悪生存期間の短縮と関連していました(9.4か月[7.6-13.7]対 17.2か月[15.4-23.2];ハザード比1.57[1.28-1.93]; p<0.0001)および全生存期間(33.0か月[21.9-46.7]対57.9か月[48.7-NC];ハザード比1.66[1.30-2.13]; p<0.0001)が認められました。抗菌薬のベースラインでの曝露は無増悪生存期間の短縮と関連していました(9.2か月[95% CI 4.9-18.1]対 15.6か月[13.6-17.6];ハザード比1.50[1.08-2.10];しかし、全生存期間には有意な変化は認められませんでした(37.7か月18.8-NC]対49.2か月[39.7-57.3];ハザード比1.33[0.90-1.97];p=0.16)。プラセボ群では、プロトンポンプ阻害薬の投与歴も抗菌薬の投与歴も、無増悪生存期間および全生存期間の変化とは関連していませんでした。無増悪生存期間(p=0.023)および全生存期間(p<0.0001)について、治療とプロトンポンプ阻害薬との間に有意な相互作用が認められましたが、抗菌薬については認められませんでした。ベースラインにおけるプロトンポンプ阻害薬および抗生物質の投与は、デュルバルマブ投与群では予後の悪化と関連していたが、プラセボ群では関連が見られませんでした。これは、切除不能なⅢ期非小細胞肺癌において、プロトンポンプ阻害薬および抗菌薬の投与によりデュルバルマブの効果が減弱する可能性があることを示唆しています。
因果関係の証明および代替治療戦略の構築には今後の前向き研究が必要と思います。

2) 伊勢崎市民病院 呼吸器内科 塙雅子先生
「慢性閉塞性肺疾患における慢性的なPPI使用での増悪リスクについて」
Dehondt V, Van Vaerenbergh F, Verhamme K, Lahousse L. Chest, 2026, Epub ahead of print.
慢性閉塞性気道疾患(COAD)患者におけるプロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用と増悪リスクについては、これまでの研究で一貫性のない結果が示されています。
研究デザインですが、2017年から2022年の間にCOADの長期投薬を受けた成人患者に関するベルギーの全国的な請求ベースのデータを用いて、多変量CoxモデルによりPPI使用と増悪リスクの関連を調査しました。前年に調剤された規定日用量(DDD)に基づき、治療の逆確率重み付けCox回帰モデルによって用量依存的な関連を評価しました。
対象となったCOAD患者932,135人のうち、416,087人(44.6%)がPPI使用者であり、前年の投与量は57,540人(13.8%)が1〜28 DDD、128,017人(30.8%)が29〜180 DDD、127,981人(30.8%)が181〜365 DDD、102,549人(24.6%)が365 DDD超でした。年齢・性別・喫煙・社会経済的状況・増悪歴・短時間作用性気管支拡張薬の使用・フレイル・併存疾患を調整した結果、PPIの使用は増悪リスクの増加と関連していました(調整ハザード比[HR]1.18[95% CI、1.17-1.19])。さらに、PPIを使用しなかった患者と比較して、増悪リスクは累積DDDとともに増加しました(28 DDD以下:HR 1.09、180 DDD以下:HR 1.15、365 DDD以下:HR 1.19、365 DDD超:HR 1.25)。感度分析では、増悪リスクとの関連は、50歳未満・フレイルではない患者・理論的にPPI血漿濃度が上昇している患者で最も顕著であり、胃食道逆流症患者で短期間使用された場合は有意ではありませんでした。
閉塞性肺疾患患者における累積的なPPIの使用は、増悪リスクの増加と関連していました。この結果は、呼吸器診療の実臨床においてPPIの使用を慎重に検討する必要性を強調しています。

3)群馬大学医学部附属病院 呼吸器・アレルギー内科 飯島峻太郎先生
「リファンピシン耐性結核患者に対する6ヵ月短期レジメンの有効性と安全性の検討」
Francesca Conradie, et al. A Pragmatic Trial of a 6-Month Strategy for Rifampicin-Resistant Tuberculosis. N Engl J Med 2026;394:2429-2439
本研究は、肺リファンピシン耐性結核(RR-TB)に対する6か月短期治療の有効性・安全性を、従来の9か月以上の標準治療と比較した第3相、非盲検、無作為化非劣性試験(BEAT Tuberculosis trial)です。南アフリカで403例を無作為化し、試験群はベダキリン+リネゾリド+デラマニド+レボフロキサシンまたはクロファジミン(必要に応じ両者)を6か月、対照群は当時の南アフリカ標準治療を9か月以上実施しました。小児(6歳以上)、妊娠・授乳中、フルオロキノロン(FQ)耐性例も含めた点が特徴です。
主要評価項目は、治療終了時および無作為化76週後の治癒または治療完遂です。
成功率は6か月群86.1%(174/202)、対照群86.0%(172/200)で、調整リスク差−0.2%(95%CI −6.9~6.5)となり、事前設定した非劣性マージン10%を十分に満たしました(非劣性検定P=0.001)。FQ耐性の有無・HIV感染・年齢・性別などによる明らかな治療効果の差も認めませんでした。
安全性も概ね同等で、Grade 3以上の有害事象は6か月群31.2%、対照群37.0%、死亡は両群10例でした。一方、6か月群ではリネゾリドに関連する貧血、末梢神経障害、視神経炎などに注意を要し、約20%ではリネゾリドの中断・休薬が必要となりました。
本研究の最大の意義は、RR-TBに対して「6か月」という短期治療でも、従来の長期治療に対して有効性が劣らないことを、実臨床に近い条件で示した点にあります。
ただし、南アフリカでの研究であり、薬剤感受性試験が一部不十分だったこと、また再発は6か月群5.0%、対照群2.0%とやや多かった点には留意が必要です。したがって、短期化の有効性を支持する重要なエビデンスである一方、薬剤耐性パターンを確認した上での適切なレジメン選択と、リネゾリド毒性への綿密なモニタリングが不可欠と考えられました。

2026年8月の抄読会も多くの方に御参加頂き、ありがとうございました。
引き続きよろしくお願いいたします。

