2025年5月抄読会まとめ
御発表頂いた矢冨先生、吉田大祐先生、山口先生ありがとうございました。
抄読会の内容を振り返らせて頂きます。
1.群馬大学医学部附属病院 呼吸器・アレルギー内科 矢冨 正清先生
「妊娠と喘息」
Asthma in pregnancy
Allerg Asthma Proc 44:24-34, 2023; doi: 10.2500/aap.2023.44.220077
近年、喘息治療の進歩は目覚ましく、10%を占めるとされる重症喘息において、早期からの生物学的製剤の重要性が認識されています。
一方で、若年者の難治性喘息において、生物学的製剤の積極的投与が困難な場合があり、その一つが妊娠可能な女性への投与です。近年の喘息と妊娠の最新の知見について、最近の知見を紹介し、生物学的製剤の位置づけを確認頂きました。
妊娠中の生理学的変化も紹介頂きました。(First trimesterはTh1優位、second及びThird trimesterはTh2優位。またFVCやFEV1は妊娠中も変化しない。)
また喘息合併した妊婦の方は、3分の1で喘息が悪化、4分の1で喘息が改善、3分の1で変化がなく、中等度から重症の喘息を有する妊婦では有害転帰が多くみられることも示して頂きました。
さらに妊娠中の薬物療法にも言及頂き、ICS・LTRA・LABA・SABA・LAMAが有用であること、またBio製剤ではオマリズマブ投与を受けた妊婦における先天異常のリスク増加が示されなかったこと、また抗IL-5抗体や抗IL-4/13抗体を投与された動物実験および喘息患者の症例報告から安全性は良好であったことを示して頂きました。
妊婦の喘息に関与する病理学的機序を解明するためには、さらなる研究が必要であると考えられました。
2.藤岡総合病院呼吸器内科 吉田大祐先生
「誤嚥性肺炎における呼吸器ウイルス感染の役割を探る:下気道感染症例の包括的な分析」
Exploring the role of respiratory virus infections in aspiration pneumonia: a comprehensive analysis of cases with lower respiratory tract infections.
Daijiro Nabeya, Takeshi Kinjo, Wakako Arakaki, Sayaka Imada, Haruka Zukeyama, Mao Nishiyama, Naoya Nishiyama, Hiroe Hashioka, Wakaki Kami, Kazuya Miyagi, Shusaku Haranaga, Jiro Fujita, Tomoo Kishaba, Kazuko Yamamoto. BMC Pulmonary Medicine25, Article number: 78 (2025)
細菌性肺炎に対しての呼吸器ウイルス感染の関与は知られています。しかし誤嚥性肺炎でのウイルス感染の関与は知られておらず、今回の論文はそちらの関与に対する研究になります。
本研究は後ろ向き観察研究であり、2020年2月から2021年1月の間に沖縄中部病院の救急外来を受診した20歳以上の患者を対象としました。インフルエンザ抗原検査を受けた症例を対象に、臨床診断に基づき誤嚥性肺炎(AP:59例)、非誤嚥性肺炎(non-AP:118例)、急性気管支炎(AB:32例)に分類されました。インフルエンザ抗原検査の鼻咽頭ぬぐい検体からRNAを抽出してアデノウイルスや季節性コロナウイルス、パラインフルエンザウイルス、SARS-CoV2ウイルスなどのウイルスのPCRを行いました。
主要アウトカムとしてウイルス検出率を、副次的アウトカムとしてウイルス・細菌の種別の検出率、ウイルス陽性/陰性例の臨床像を確認して群間で比較しました。
結果として、AP群と他群で検出ウイルスの有意差はなく、全ての群で最多の検出率を示したウイルスはライノウイルスでした。
non-AP群とAB群では呼吸器ウイルス検出率が高いのは想定通りでしたが、AP群でも他群と同様にウイルス感染の関与が示唆されました。
呼吸器ウイルス感染は嚥下障害の誘因になる可能性も考えられました。
誤嚥性肺炎患者は医療・介護の現場に多いことから、ウイルス感染対策も重要と考えられました。

3.群馬大学医学部附属病院 呼吸器・アレルギー内科 山口 公一先生
「日本および北米の抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎患者におけるB細胞エピトープの比較解析:免疫レパトアと肺関連死亡率の直接的関連性」
Comparative B cell epitope profiling in Japanese and North American cohorts of MDA5 dermatomyositis patients reveals a direct association between immune repertoire and pulmonary mortality.
Koichi Yamaguchi , Paul Poland, Lei Zhu, Siamak Moghadam-Kia, Rohit Aggarwal, Toshitaka Maeno, Akihiko Uchiyama, Sei-Ichiro Motegi, Chester V Oddis, Dana P Ascherman. Rheumatology, 2025,64,2953-2960.
本年度、日本呼吸器学会および日本リウマチ学会より膠原病関連間質性肺炎に関する新たなガイドラインが発表され、皮膚筋炎においては抗ARS抗体および抗MDA5抗体が診療の主軸として取り上げられています。抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎は従来、予後不良とされてきましたが、近年の治療法の改良により救命率の向上が報告されています。しかし、これまでの報告の多くはアジアからのものであり、予後不良例や急性進行性間質性肺炎の発症を予測するバイオマーカーは未だ不十分です。
本研究では、山口先生の留学先である米国ピッツバーグ大学において、日本および北米の抗MDA5抗体陽性患者の臨床的特徴の比較に着目し、B細胞エピトープと病態との関連を、両国のヒト血清を用いて検討した論文となります。今回はその前段階として行った、北米における抗MDA5抗体陽性患者の臨床的特徴に関する研究もあわせて紹介頂きました。
抗MDA5抗体は症状発現時に抗体価が上昇し、非生存者では治療前後の下がりが悪いことが示されています。また、環境因子が原因としても疑われており、河川の近くに発症が多いことや人種差があることを示して頂きました。
抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎におけるB細胞エピトープ(B細胞エピトープとは抗体が認識する特定の抗原部分のこと)との臨床的な関係についてですが、MDA5抗体のB細胞エピトープは明らかな地域差や人種差があることが分かりました。本邦では米国と比べると急速進行性が多く、抗MDA5抗体陽性や抗体価のみでは病勢を予測することは困難であり、
B細胞エピトープのフラグメントがそのような指標になるのではないかとの結論でした。

次回の抄読会は6月18日になります。ご参加の程、宜しくお願い致します。