2025年12月抄読会まとめ~年末に相応しく興味深い内容でした~

御発表頂いた原先生、星野先生、宮下先生ありがとうございました。
クリスマスの開催でしたが、様々な討議が行え、有意義な抄読会でした。
抄読会の内容を振り返らせて頂きます。

1) 公立藤岡総合病院 呼吸器内科 原健太郎先生
「気管支拡張用バルーンカテーテルによる末梢肺病変の診断」
Miyake K, et al. Balloon dilatation for bronchoscope delivery: first-in-human trial of a novel technique for peripheral lung field access.
Thorax. 2025 Nov 17:thorax-2025-223218.

気管支鏡による末梢肺病変(PPL)への到達は困難な場合が多く、特に小さなPPLの場合、経気管支鏡的生検の感度を低下させ得ることが課題となっていました。
そこで、気管支鏡検査による末梢肺病変の診断感度向上を目的とした、気管支経路をバルーンで拡張する「BDBD(Balloon Dilatation for Bronchoscope Delivery)」が開発されました。本研究では、この方法を用いた経気管支生検の診断精度と安全性プロファイルを評価しました。
この多施設共同単群前向き研究には、bronchus sign陽性でPPLが20mm未満の患者を対象としました。気管支鏡検査は、意識下鎮静下で極細気管支鏡または細径気管支鏡を用いて実施しました。気管支鏡がそれ以上進めない場合、BDBD法を用いて標的に接近し、その後、生検を実施しました。気管支鏡検査自体が困難、重篤な循環器・腎・肝機能障害、
呼吸不全、出血リスクなど全身状態に懸念がある場合は研究から除外されました。
主要評価項目は、指定された手順で得られた検体における悪性腫瘍の診断感度であり、バルーン拡張を用いた気管支鏡の挿入、生検部位の直接観察、および重篤な有害事象がないこととしました。
BDBD法を用いて気管支鏡検査を受けた22例中18例が最終的に癌と診断されました。BDBD法は、18例全例で重篤な合併症なく気管支鏡の前進を可能にし、17例で生検部位の直接観察を可能にし、14例で癌を検出しました。悪性腫瘍の診断感度は77.8%(18例中14例)でした。これらの症例以外にも、全ての手技基準を満たした1例がクリプトコッカス症と診断されました。平均して、BDBD法は気管支鏡を2.3分岐まで前進させることができました。重篤な合併症(気胸、大量出血、気管支断裂など)は認められませんでした。他方、手技時間が平均57分と長時間となる傾向がありました。
この小規模観察研究において、BDBD法は小さなPPLに対する気管支鏡検査の診断感度を向上させる有望な方法であると考えられました。大規模コホートにおけるさらなる検証が必要と考えます。

2) 前橋赤十字病院 呼吸器内科 星野裕紀先生
「特発性肺線維症に対する抗線維化薬治療における、気腫合併例と非合併例の生存転帰の比較」
Fang YH, Hsieh YA, Chen YF, et al. Comparing survival outcomes of anti-fibrotic therapy for idiopathic pulmonary fibrosis with and without emphysema: a multi-center real-world study from Taiwan. BMC Pulm Med. 2025 Aug 21;25(1):401.

気腫合併肺線維症(CPFE)は、特発性肺線維症(IPF)の中でも特に予後不良な表現型とされていますが、抗線維化薬治療後の生存期間についてはよく分かっていません。
これら2つのグループの治療成績を比較し、死亡予測因子を特定することを目的とした研究をご紹介頂きました。
本研究は、2015年8月から2022年8月にかけて台湾の7つの病院で実施された後ろ向きコホート研究であり、国民保険の適用で抗線維化薬を投与されたIPF患者を対象としました。高分解能胸部CTで観察された気腫の範囲に基づき、IPF患者をIPF単独群とIPF+気腫合併群の2群に分類しました。ベースラインの特性と生存転帰を両群間で比較しました。追跡期間中の全死亡率に関連する因子を特定するために、多変量解析にCox比例ハザードモデルを用いました。
対象となった275例のうち、126例(45.8%)が気腫合併IPF、149例(54.2%)がIPF単独でした。気腫合併群は、IPF単独群と比較して、男性、喫煙歴、ばち指、併存疾患、またはdefinite usual interstitial pneumonia (UIP) パターンの割合が高かったです。さらに、この群は努力肺活量(FVC)および1秒量(FEV₁)が高かったですが、FEV₁ (%)は同程度で、FEV₁/FVC (%)は低かったという結果でした。追跡期間中央値3.7年において、全生存率は同等でした(IPF単独:45.6%、IPF+気腫合併:48.4%)。probable UIP患者の全生存率は、definite UIP患者よりも有意に良好でした(53.5% vs. 34.6%)。同様に、肺拡散能(DLCO)>49%の群の生存率は、DLCO≤49%の群よりも高かったです(53.9% vs. 31.4%)。交絡因子を調整した後、低いBMI(調整ハザード比[aHR]=0.95)および肺高血圧症の合併(aHR=2.27)が、全死亡率の増加と独立して関連していました。気腫の有無も抗線維化薬の種類も死亡率とは関連しませんでした。
抗線維化薬による治療後、IPFと気腫を合併する患者とIPF単独の患者の生存転帰は同等でした。低いBMIと肺高血圧症の合併が、死亡率増加の有意な予測因子であるとの結論でした。
以上からは、早期栄養療法の導入、またIPF患者に対しては肺高血圧症の定期的なスクリーニングが勧められると思われました。

3) 群馬大学医学部附属病院 呼吸器・アレルギー内科 宮下晃汰先生
「既治療非小細胞肺癌に対するTROP2抗体薬物複合体datopotamab deruxtecanの有効性と安全性」
Ahn MJ, et al. Datopotamab Deruxtecan Versus Docetaxel for Previously Treated Advanced or Metastatic Non–Small Cell Lung Cancer: The Randomized, Open-Label Phase III TROPION-Lung01 Study J Clin Oncol. 2025;43:260–272.

進行・再発非小細胞肺癌において、プラチナ併用化学療法および免疫チェックポイント阻害薬治療後に病勢が進行した症例に対する治療選択肢は限られており、ドセタキセルを含むレジメンが標準治療の一つとして用いられてきました。近年、多くの非小細胞肺癌で発現するTROP2などの腫瘍抗原を標的とした抗体薬物複合体が新たな治療として注目されています。TROP2を標的とするdatopotamab deruxtecanとドセタキセルを比較した第Ⅲ相無作為化比較試験であるTROPION-Lung01試験について、既治療NSCLCにおける抗体薬物複合体の有効性および安全性の観点について報告した論文を紹介頂きました。

TROP2は多くのNSCLCで高発現する腫瘍抗原で、ドライバー遺伝子変異に依存しにくい標的として注目されています。Datopotamab deruxtecan、いわゆるDato-DXdは、ヒト化抗TROP2モノクローナル抗体にトポイソメラーゼ阻害薬を結合した抗体薬物複合体です。本試験では、既治療NSCLCにおいて、従来治療であるdocetaxelと比較して、Dato-DXdの有効性と安全性を検証することを目的としています。
対象は、既治療のStageⅢB/CまたはⅣのNSCLC患者(ECOG PS 0-1)です。
割付は、Dato-DXd(6mg/kg、3週ごと)またはDocetaxel 75mg/m2、3週ごと)に1:1で無作為割付されました。層別化因子はActionable genomic alternation(AGA)の有無、組織型、直前の抗PD-1/PD-L1抗体薬治療の有無、地域です。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)であり、副次評価項目:奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性でした。
604名が無作為化され、Dato-DXd群が299名、docetaxel群が305名でした。
年齢中央値はDato-DXd群が63歳とdocetaxel群が64歳で、男性はそれぞれ61.2%、68.9%でした。組織型は非扁平上皮癌が約8割で、治療可能な遺伝子変異、AGAを有する症例が両群とも16.7%でした。
PFS中央値はDato-DXd群が4.4か月、Docetaxel群が3.7か月でした。ハザード比(HR)は0.75(95% CI:0.62-0.91)、P値: 0.004でした。
OS中央値はDato-DXd群が12.9か月、Docetaxel群が11.8か月であり有意差はありませんでした。
組織型の解析では、PFSの改善は非扁平上皮癌でより明らかでした(5.5か月vs3.6か月)。一方で、扁平上皮癌ではPFSの延長は示されませんでした。
OSも同様に、非扁平上皮癌で改善を示唆する所見を認めました(14.6か月vs12.3か月)が、扁平上皮癌ではOSの延長は示されませんでした。
ORR、DORもそれぞれ31.2%(95%CI:25.3-37.6)vs26.4%(95%CI:21.5-31.8)、7.7か月(95%CI:5.6-11.1)vs7.1か月(95%CI:5.6-10.9)と非扁平上皮癌で良好な結果が示されました。
Dato-DXd群はドセタキセル群よりも治療期間が長かったにもかかわらず、
グレード3以上の治療関連有害事象や、治療関連有害事象による減量・治療中止の頻度はdocetaxel群と比較し低い傾向にありました。
Dato-DXd群で頻度の高い有害事象は、口内炎47.5%、悪心34.0%、脱毛32.0%で、多くはグレード1~2でした。一方でILDが一定頻度で認められ、致死的ILD、グレード5も報告されています。使用にあたっては、早期発見と中止判断を含めた慎重な管理が前提になります。
以上が今回の結果となります。
Datopotamab deruxtecanは、既治療NSCLC、特に非扁平上皮癌において、治療選択肢を拡げうる薬剤ですが、OS延長を確立した治療ではありません。
使用に当たっては慎重な患者選択とILDを含む安全性管理が前提になると結論付けられています。

2025年も多くの方に抄読会に参加頂き、ありがとうございました。
次回の抄読会は2026年1月28日になります。
2026年もご参加の程、宜しくお願い致します。