2025年11月抄読会まとめ~SAS・NTM・肺癌と多彩な内容でした~
御発表頂いた澤田英先生、申先生、丸澤先生ありがとうございました。
抄読会の内容を振り返らせて頂きます。
1) 群馬大学医学部附属病院 呼吸器・アレルギー内科 澤田英先生
「睡眠時無呼吸症候群の評価における在宅用睡眠時脳波測定の有効性を確認」
Jaehoon Seol , et al. Sci Rep. 2024 Feb 12;14(1):3533.
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の患者は世界で10億人以上いると推定されており、日本でも中等症以上の患者だけで900万人以上が罹患していると推定されています。
しかし、睡眠障害の診断に用いられる終夜睡眠ポリグラフ(PSG)は年間8万件しか行われておりません。
PSG検査は医療施設への入院を必要とするため、多大な費用や時間を要し、睡眠時呼吸検知装置による簡易検査は在宅で実施可能だが睡眠脳波が得られないために再度のPSG検査を要するケースが多く、患者の負担を軽減する新たな検査が求められています。
そこで、在宅等の遠隔医療で実施可能な睡眠時脳波測定のOSAS患者に対する有効性に関して、患者77人を対象としたPSG検査との同時計測によって評価しました。
この実験は2021年8月から2022年3月にかけて実施されました。長崎の井上病院睡眠センターから計90名のOSAS患者を募集しました。対象条件は年齢が20歳以上かつ自宅検査(ウェアラブルデバイスまたは単純なパルスオキシメーターを使用)においてAHIが≥5、またはでODIが≥5(3%基準)を示しOSASが疑われる症例としました。機器関連の問題で7症例を除外、測定失敗の6症例を除外し、最終的に77例のOSA患者が解析対象となりました。
参加者は、I型PSGと携帯型EEG装置を同時に装着し、通常の睡眠・起床時刻で睡眠をとりました。患者が就寝すると同時に照明を消し、I型PSGと携帯型EEG装置の記録を開始しました。同様に、患者が起床すると同時に照明を点灯し、両装置の記録を停止しました。さらに、両装置の照明点灯・消灯時刻を一致させた後に、睡眠段階の計算を行いました。Ⅰ型PSGでは6つのEEG電極部位を用いました。睡眠中には2つの眼電図、1つのオトガイ筋電図、脈拍、SpO2を測定し記録しました。睡眠段階は覚醒(W期)、N1、N2、N3のノンレム睡眠、レム睡眠に分類しました。携帯型EEGでは4つのEEG電極と1つの基準電極を用い、左右の眼球運動と顎の筋電図を測定しました。潜在的な交絡因子を特定するため、年齢・BMI・腹囲、頸囲などを組み入れています。抑うつ症状はCES-Dスコア、主観的睡眠パラメータはESS、AISスコアを用いて測定しました。
解析方法としては、Bland–Altmanプロット(機器間のバイアスと同意範囲の確認)、Intraclass Correlation Coefficient(ICC:相関/一致度)、エポックごとの混同行列・感度/特異度、ROC解析(arousal indexでAHIの重症度をスクリーニングできるか)が用いられました。
AHIの結果としましては、6人がOSASの診断には至らず、軽度OSAS(AHI:5-15)が20人、中等度のOSAS(AHI:15-30)が17人、重度のOSAS(AHI:30以上)が34人でした。
解析では、2つのデバイス間で睡眠段階を識別する精度が良好であることが示されました。覚醒(W期)、N2、REMの一致率は高い傾向にあり、N1やN3の一致率は比較的低い傾向にあり、OSASの重症度が異なっていてもその傾向は一貫していました。Bland–Altman解析で95%が同意限界内であること、Intraclass Correlation Coefficient(ICC)が0.761–0.982と高いこと、エポック単位の一致(分類精度)も良好であること、携帯EEGで算出したarousal indexを用いたROC解析で、AHI≧15(中等度以上)や≧30(高度)を判定するAUCが高く、感度・特異度も良好であったため、デバイス間の妥当性は高いとの結論に至りました。
N1(浅い睡眠)とN3(深い睡眠)の感度が低かった原因としましては、N1やN3の判定はポータブル単チャンネルや前額部電極では難しく、携帯EEGはN1をN2に、N3をN2に誤分類することが多かったようです。したがって睡眠構造の細かな部分では差が出るとの結果でした。
また今回の実験は医療機関の睡眠検査室での検査であり、睡眠時間に制限がありませんでした。家庭環境での検証も今後の課題となります。
以上の条件をクリアできれば現在の検査よりもハードルが低く、制度の高い検査が導入される可能性もあると思われます。今後の研究に期待したいと思います。

2) 渋川医療センター 呼吸器内科 申悠樹先生
「肺非結核性抗酸菌症を診断する際の非膿性喀痰の診断的価値について」
Hanaka M, et al. Diagnostic value of nonpurulent sputum in nontuberculous mycobacterial lung disease: A cross-sectional study based on the Miller and Jones classification.Respiratory Investigation 63(2025) 1287-1292.
肺NTM症の診断には2回の喀痰培養からの菌分離が重要な基準となります。しかし、肺NTM症の患者さんでは、喀痰喀出が困難で、診断が遅延することがあります。
喀痰の質は呼吸器感染症の細菌学的評価において重要であり、日本ではMiller&Jones分類が広く使用されています。この分類では、M1-2と評価された検体は唾液含有量が高く、細菌学的分析に不適切とみなされます。質の低い喀痰は不正確な病原体同定を招き、不適切な治療や医療費増加につながる可能性がある、とされています。
本研究の目的は、肺NTM症において、喀痰の質(Miller&Jones分類)とNTM検出率(塗抹、PCR、培養)との関連性を評価することです。
この横断研究は飯塚病院(単施設)で実施され、2021年9月から2022年9月の間に肺NTM症と診断された連続患者54名から得られた158の喀痰検体を解析しました。喀痰の質はMJ分類に基づいて評価され、M1(唾液または完全粘液性)、M2(少量の膿を含む粘液性)、P1(軽度膿性)、P2(中等度膿性)、P3(著明膿性)の5カテゴリーに分けられました。検査にはオーラミン蛍光染色、MAC-PCR、液体培地による抗酸菌培養が含まれました。分離株はMALDI-TOF MSで菌種同定されました。
患者の年齢中央値は76.3歳で、女性が72%を占めました。最も頻繁に同定された病原体はM. avium(48%)とM. intracellulare(35%)でした。胸部CTでは空洞性病変が35%に確認されました。26%の患者が喀痰採取時に治療を受けていました。
喀痰検体の分布は、M1が15%、M2が48%、P1が20%、P2が10%、P3が7%であり、非膿性喀痰(M1とM2)が全体の63%を占めました。オーラミン蛍光染色の陽性率は全体で8.9%であり、M2検体で13.2%と最も高かったですが、喀痰の質と染色陽性率との関連は統計的に有意ではありませんでした(p=0.23)。MAC-PCR検査は46検体で実施され、32%が陽性でありましたが、喀痰の質との有意な関連は認められませんでした(p=0.46)。抗酸菌培養は48.7%で陽性であり、M1で33.3%、M2で51.3%、P1で48.4%、P2で56.3%、P3で54.5%の陽性率を示しました。培養陽性率と喀痰の質との間にも統計的に有意な関連は認められませんでした(p=0.55)。細菌の共検出は19検体(12%)で観察され、膿性喀痰(P2とP3)で有意に高率でありました(p=0.0008)。Pseudomonas aeruginosaが最も頻繁に検出されました。
本研究は、非膿性喀痰でも臨床的に有意義なNTM検出率が得られることを示しています。培養陽性率はM1で約33%、M2で50%以上とM1やM2の検体でも高く、喀痰の膿性度は、NTMの塗抹・PCR・培養いずれの陽性率とも関連はしませんでした。
一般細菌による呼吸器感染症と異なり、喀痰の質は肺NTM症の診断においては、あまり重要ではない可能性があることが示唆されました。膿性喀痰(P2・P3)はNTM菌量ではなく、緑膿菌などの一般細菌の同時検出を有意に反映していました。これらの知見は、特に軽度または非空洞性肺NTM症患者において、膿性にかかわらず繰り返し喀痰提出を推奨することを支持するものだと考えられます。

3)公立富岡総合病院内科 丸澤幹仁先生
「MET Exon 14 Skipping Mutations を有する非小細胞肺癌におけるテポチニブ」
P .K.Paik, et al. Tepotinib in Non–Small-Cell Lung Cancer with MET Exon 14 Skipping Mutations.NEJM.2020 Sep 3;383(10):931-943.
非小細胞肺癌(NSCLC)患者の 3~4%で発癌のドライバー遺伝子 MET のエクソン 14 にスプライス部位変異が生じており、これにより転写が欠失します。この患者集団を対象に、高選択性 MET 阻害薬であるテポチニブの有効性と安全性を評価しました。
非盲検第2相試験で、MET エクソン 14 スキッピング変異が確認された進行または転移性の NSCLC患者にテポチニブ(500 mg)を 1日 1回投与しました。主要エンドポイントは、9か月以上追跡された患者における、独立判定機関の判定による客観的奏効としました。MET エクソン 14スキッピング変異の検出方法がリキッドバイオプシーか組織生検かによる解析も行いました。
2020 年 1月 1日の時点で、152例がテポチニブの投与を受け、99例が 9か月以上追跡されました。リキッドバイオプシーと組織生検を統合した群における独立判定機関の判定による奏効割合は46%(95%信頼区間 [CI] 36~57)であり、奏効期間の中央値は 11.1か月(95% CI 7.2~推定不能)でした。リキッドバイオプシー群 66 例における奏効割合は 48%(95% CI 36~61)、組織生検群 60 例における奏効割合は50%(95% CI 37~63)でした。27 例は両方の生検で陽性でした。試験担当医師の評価による奏効割合は56%(95% CI 45~66)であり、進行または転移性のNSCLCに対する前治療にかかわらず同程度でありました。試験担当医師がテポチニブに関連すると判定したグレード 3 以上の有害事象は患者の28%に発現し、グレード 3 以上の末梢性浮腫は7%に発現しました。患者の 11%でテポチニブは永久に中止されました。循環血中遊離DNAで評価した分子学的奏効は、ベースラインと投与中のリキッドバイオプシー検体がマッチした患者の67%に認められました。
MET エクソン14スキッピング変異が確認された進行NSCLC患者において、テポチニブの使用は患者の約半数における部分奏効に関連していました。グレード3以上の主な毒性は末梢性浮腫でした。

今回も日常臨床に役立つ内容で、大変勉強になりました。
次回の抄読会は12月24日になります。
ご参加の程、宜しくお願い致します。

