抄読会へのご参加、ありがとうございました
2025年3月抄読会
ご発表いただいた先生、大変ありがとうございました。
また、4月からは学術係を武藤先生にバトンタッチします。
1年間、ありがとうございました。
抄読会の内容を振り返らせていただきます。
1)前橋赤十字病院 蜂巣 克昌先生
「IIPs患者における便秘の生存への関連」
Sho Takuma, et al. Association of constipation with the survival of patients with idiopathic interstitial pneumonias. Respir Investig. 2024 Nov;62(6):1204-1208.
腸内細菌叢と肺線維症の関連、便秘患者での心疾患発症リスクの上昇等はこれまで報告がありますが、間質性肺疾患と便秘の関連については明らかになっていません。そこで、本研究では、単施設後方視的に2004年9月から2021年6月までに浜松医科大学病院で診断されたIIP患者を対象とし、便秘とIIPとの関連性を検討しました。便秘発症の定義は観察期間中に記録された下剤の服用歴とし、便秘の発症は時間依存性であり、年齢、性別、BMI、%FVC、%DLCOで重みづけを行いました。
17年間、501例のうち433例が解析対象となり、便秘症例が239例いました。初診時に23例(9.7%)が既に便秘発症、新規に便秘発症した患者は発症まで中央値 8.0ヵ月(0-189ヵ月)でした。使用された下剤の種類は刺激性下剤(n = 183、76.9%)、浸透圧性下剤(n = 171、71.8%)、上皮機能変容薬(n = 21、8.8%)でした。
その結果、Nintedanib HR 2.427(95% CI 1.97202.988) p<0.001、Pirfenidone HR 2.395(95% CI 1.940-2.957) p<0.001でいずれも便秘が生存期間の短縮に関連していました。一方で急性増悪の累積発症率は有意な差は見られませんでした(HR 1.099(95% CI 0.675-1.790) p=0.701)。
腸内細菌叢と肺病変の関連がマウスモデルで知られており、微生物叢の変化が肺病変の進行に関連した可能性が考えられました。
本研究のLimitationとしては、免疫抑制剤や鎮咳薬の副作用、ADLの低下による便秘の頻度上昇が便秘と関連している可能性を否定できず、便秘が結果なのか原因なのか分かりませんでした。
便秘はIIPsの生存期間を予測する独立した因子である可能性が示唆されました。
2)群馬大学医学部附属病院 武藤 壮平先生
「気管支拡張症に対するブレンソカチブ WILLOW試験サブグループ解析」
James D. Chalmers, et al. ERJ Open Res 2025;11:00505-2024.
気管支拡張症は, 咳嗽と粘性の喀痰を慢性的に訴え, しばしば増悪を繰り返しながら進行する予後不良の疾患です。
近年、「好中球の再プログラム化」が注目されており, 骨髄における好中球の成熟過程に関わるDPP-1を阻害すると, 気管支拡張症の増悪を抑制できることが臨床試験で示されています。また、経口可逆的DPP-1阻害薬であるBrensocatib
の第Ⅱ相臨床試験(WILLOW試験)ではプラセボ群と比較して、気管支拡張症の初回増悪までの期間を有意に延長し, 増悪頻度も低下させました。さらに、第Ⅲ相臨床試験(ASPEN試験)でも, Brensocatib は10mg及び25mgの両用量で主要評価項目を達成し, 肺疾患増悪発生頻度のプラセボに対する統計学的に有意な減少と良好な忍容性を示しました。
本研究は、ブレンソカチブの第Ⅱ相無作為化二重盲検プラセボ対照試験である
14か国(116地域)の256例(18-85歳, 12か月以内に2回以上の増悪歴のある症例)のサブグループ解析の結果は以下のとおりです。
【割り付け】プラセボ群(87例), ブレンソカチブ10mg群(82例), ブレンソカチブ25mg群(87例)に1:1:1の割合で無作為
▷気管支拡張症重症度指数(BSI)スコア(軽症≦4, 中等症5-8, 重症≧9)
▷前年度の増悪回数(2回, 3回以上)
▷血中好酸球数(<300/μL, ≧300/μL)
▷マクロライドの長期使用(6か月以上の使用の有無)
▷スクリーニング時の緑膿菌培養(陰性または陽性)
• 全患者の気管支拡張症重症度指数であるBSIスコアの平均は8.3であり, 53人はBSIスコア≦4(軽症), 89人はBSIスコア5-8(中等症), 114人はBSIスコア≧9(重症)。
• 全てのサブグループにおいて, ブレンソカチブによる治療はプラセボと比較して, 一貫して増悪リスクの低下(初回増悪までの時間で評価)と関連していた。
• 治療群とプラセボ群のハザード比(HR, 95%CI)はBSI≦4のサブグループでは0.28(0.08-0.96), BSIが5-8では0.75(0.35-1.60), BSI≧9では0.61(0.35-1.04)であった。
• 年間増悪率は, BSI≦4では62%低く, BSIが5-8とBSI≧9では31%低かった。
• 24週間の治療期間後, 解析した全てのサブグループにおいて, ブレンソカチブ群の肺機能低下はプラセボ群と比較して数値的に低かった。
• ブレンソカチブ投与群とプラセボ投与群の患者間の最小二乗平均値の差は, 軽症患者群の方がそれ以外の群よりも大きい結果であった。
• 有害事象の発生率はサブグループ間で同様であった。
• 調査した全てのサブグループが, ブレンソカチブによる治療に反応し, プラセボと比較して初回増悪までの期間が長く, 増悪の頻度が減少した。
• 肺機能の低下に関しても, 治療群の方がプラセボ群に対して抑えられたとの結果を得た。
• ただし, これらは事後解析であるため, 個々のサブグループ間で肺機能への影響に関して観察された数値的な差は, 臨床的に意義があると解釈されるべきではない。
• 血中好酸球が高かった患者は, 低かった患者とNEレベルが同じであった。これは, 「好中球性」「好酸球性」といったサブグループがあるわけではなく, 好酸球性炎症を有する患者は, 臨床的に有意な好中球性炎症を同時に有していることを示唆する。
• 血中好酸球が高かった患者は, より重症な傾向があり, 前年に3回以上の増悪を経験している割合が高かった。
• 全てのサブグループで治療の有益性が見られたが, 有益性が最大であったのはBSI≦4の軽症患者群であった。
• 最近の研究では, 治療により喀痰中のNE値を定量限界以下に抑えた患者は, 増悪減少の観点からは, 最大の有益性があったと示されている。
以上の結果から、ブレンソカチブは, 軽症・中等症・重症の非嚢胞性線維症性気管支拡張症患者において, 緑膿菌感染の有無や長期マクロライド療法の有無に関わらず, また好酸球性炎症を併発している患者においても幅広く増悪を予防することが示されました。
第Ⅲ相ASPEN試験では, より大規模な集団(1600人以上)を対象に, より長期の投与(52週間)における安全性と有効性が評価されています。