抄読会のご参加ありがとうございました
20210219
今週も、抄読会にご参加いただきました皆様ありがとうございました。
抄読会の内容を振り返らせていただきます。
1)前橋赤十字病院の江澤先生からは、HER2陽性肺癌のトラスツズマブデルクステカン(エンハーツ)に関するNEJMの論文を紹介していただきました。
HER2変異はNSCLCの2-4%に同定され、これまではトラスツズマブ(ハーセプチン)が先行薬としてあり、NSCLCに効果が示されていませんでした。
トラスツズマブデルクステカンは、トラスツズマブにトポイソメラーゼを結合させ、ハーセプチンのがん細胞への結合能を利用して、効果的にトポイソメラーゼががん細胞への抗がん作用をがん細胞選択的に発揮します(ADC)。
ADCにはバイスタンダー効果があり、HER2陰性の周囲のがん細胞への効果も期待されます。
但し間質性肺炎の有害事象が多い事が懸念されており、トラスツズマブは1%、トラスツズマブデルクステカンでは約16%の頻度で報告されています。
多施設共同非盲検第II相試験で標準治療抵抗性の転移病変のある非扁平NSCLCの91人が3週毎に投与されました。前治療の内訳はプラチナベース94.5%、ICIが65.9%で、CR 1例,PR 49例, SD 34例, PD 3例で、ほとんどの患者で腫瘍サイズの縮小が認められました。PFSは 8.2ヶ月でOS は17.8ヶ月でした。
有害事象は悪心73%、倦怠感53%、脱毛46%、嘔吐40%。Grade 3以上は46%でそのうち最多は好中球減少症でした。
ILDは24%の頻度で見られ、死亡症例は2例でした。
現在、第3相試験のプラチナ+ペメトレキセド+ペンブロリズマブを対象としたオープンラベル無作為化試験が進行中とのことでした。
薬剤性肺障害が懸念されますが、今後のHER2陽性肺癌に対する新たな治療選択肢として期待されます。
2)前橋赤十字病院の岩下先生からは、重症喘息治療薬で抗IL-5抗体製剤であるmepolizumabの長期使用に関する研究を報告していただきました。
Mepolizumabは、ステロイド減量効果や肺機能改善効果などにおいて有用性が示されてきました。また3年以上の長期使用効果も示されてきましたが、中断すると喘息の悪化を認めることが懸念されています。
本研究では、好酸球性炎症を考慮せずに重症喘息患者におけるメポリスマブの長期使用もしくは、その後の中断の効果が検証されました。
治療12カ月の時点でメポリスマブの効果が見られた50人中、24カ月時点でも継続できた35人が治療効果継続群。24カ月時点で中断されていた15人が治療効果消失群でした。治療中止の内訳は副作用が5人、喘息の悪化・制御不良が8人、患者希望が2人でした。
12カ月間治療を行った時点でのAQLQや好酸球の減少程度やステロイドの減量効果は、24カ月継続できなかった群と比して24カ月継続群で有意に良好であった。
治療24カ月継続群では、12カ月と24カ月時点でのOCSの投与量が有意に24カ月で減量できていました。
本研究では、治療前の好酸球数が少ないほど、24ヶ月目まで治療効果が継続する可能性が示されました。好酸球が多いほど、mepolizumabの効果が期待されると宣伝されてきたので、この結果にはとても興味が湧きました。
3)群馬大学の前野先生からは、メトホルミンのCOPDの拡散能に及ぼす影響についてご紹介いただきました。
メトホルミンは心血管リスク減らしたり、腸内フローラを改善させたり、最近では寿命を延長させる効果なども指摘されてきました。COPDの予後の比較では、DMありのほうが無しの方が予後不良である。さらにDMありの群では、メトホルミンの投与群の方が非投与群のよりも予後不良と報告されてきました。
本研究ではCOPD 1541例のうち、メトホルミンの投与群76例と非投与群1465例に分けて肺機能の経時的低下が比較されました。FEV1.0とFVCについては両群間に有意差が見られませんでしたが、拡散能においてはメトホルミンの投与群の方が非投与群と比して拡散能の低下が抑えられている傾向が示されました。
症例数が少ないのがリミテーションでしたが、COPDの拡散能低下に対するメトホルミンの抑制効果が示された内容でした。
群馬県のCOVID-19病棟の状況報告では、多くの市中病院で軽症例、高齢者施設でのクラスター症例が増えてきているとの報告がありました。
来月の抄読会は、3月23日(水)19時〜です。