抄読会のご参加ありがとうございました

20220324
今週も、抄読会にご参加いただきました皆様ありがとうございました。
抄読会の内容を振り返らせていただきます。

前橋赤十字病院の神宮先生からは、喘息に対する生物学的製剤使用のコロナワクチン接種後の反応抑制についてご紹介頂きました。
これまでの生物製剤使用中のワクチン投与に関する研究では、ベンラリズマブ投与中のインフルワクチン、デュピルマブ投与中の破傷風菌ワクチン、髄膜炎菌ワクチンに対する抗体産生能に影響はなかったという報告があります。
本研究ではデュピルマブ30例、ベンラリズマブ12例、メポリスマブ6例、対照群に30例を設定しています。ステロイド内服10mg/日や免疫抑制状態、COVID-19罹患歴のある方は除外されました。
コロナワクチン接種後の抗体価上昇は、喘息の生物学的製剤使用群で1,2,3ヶ月後いずれの期間でも低かったという傾向が見られました。
ただし、年齢や併存疾患、吸入ステロイドの影響などについての交絡因子の影響は除外していませんでした。
IL-5の阻害剤とIL-4/13の阻害剤を一緒に解析されているので、どちらの抗体製剤がワクチンの抗体産生に影響を与えるのかが気になる結果でした。
論文の図からは、それほど喘息の生物学的製剤は、COVID-19ワクチンに対する抗体産生能に対する影響は大きくない、という印象を抱きました。

群馬大学の笠原先生からは、COVID-19に対するRNAポリメラーゼ阻害剤のモルヌピラビルのNEJMの論文をご紹介頂きました。
MOVe-OUT試験において、モルヌピラビル5日間を1日2回投与され、発症29日以内の入院や死亡イベントをアウトカムとして実施されました。本研究は、中間解析でプラセボ群と有意差が示されたため、その時点で試験が中止となっています。重症化リスク因子を持った716症例に発症5日以内に投与されました。プラセボ群は717例でした。変異株は、デルタ株は31.2%と多く、総数の44.7%の変異は確認できていませんでした。
29日以内の入院もしくは死亡イベントはモルヌピラビル群で7.3%、プラセボ群で14.1%と有意にモルヌピラビル群で効果が見られました。サブグループ解析では、COVID-19抗体陽性群やDM群ではプラセボ群とあまり有意差は乏しかったものの、ほぼ全てのサブグループでモルヌピラビルは入院や死亡の抑制効果を示しました。重篤な有害事象は6.9%でCOVID-19肺炎が最多で、他には下痢や嘔気、めまいが1%台の頻度でした。
本研究ではオミクロン株は含まれず、妊婦は当初から除外されていました。ワクチン未接種者のみの対象研究なので、プレイクスルー症例への効果は不明でした。作用機序からは、スパイク変異株への効果は期待できると考えられます。
モルヌピラビルは多くの薬剤代謝酵素であるCYP3Aに作用しないため、他剤との相互作用への懸念が少なく、今後の外来診療でのCOVID-19治療に期待できる薬剤と思われました。
ワクチン接種者に対する効果についても同様の効果があるかが今後の最大の関心になります。

群馬大学の古賀からは、PPFEに対するニンテダニブの認容性と有用性の可能性について紹介がありました。
上葉有意型間質性肺炎(胸膜肺実質線維弾性:PPFE)は、有効な薬物療法が存在しない予後不良な稀少疾患です。本研究では後ろ向きにPPFEの21人の症例が解析されました。うち9人はニンテダニブ治療を受け、6人は別の治療を受け、別の6人の患者は薬物療法なしでモニターされました。本研究のニンテダニブ群では他のグループと比して、BMIが少なくて%FVCも減少しており、下葉のUIPパターンを33%に認めていました。
非ニンテダニブ群では、FVC減少量に変化は見られなかった一方で、ニンテダニブ群でのFVC減少量は治療介入後に有意に減少しました。さらに、ニンテダニブ群の治療前後の平均FVC変化の傾きも有意差になだらかになっていました(P=0.0037)。ニンテダニブ治療後の年間肺容量減少量(HRCT)は-415±836mL vs -280±287mL(P=0.07)へ減少しており、ニンテダニブ群の治療期間は、530±382日でした。
本研究では、サンプルサイズが極めて小さく、ニンテダニブ群9人のうち、6人がプレドニゾロンを併用されていたため、ニンテダニブのPPFEに対する効果が明らかでない懸念がありました。また、ニンテダニブ治療中の気胸のイベントが最も気になる点でしたが、論文中に気胸に関する記載が見られなかったのが非常に残念でした。
しかしながら、PPFEに対する薬物治療の論文は非常に乏しく、ニンテダニブのPPFEへの治療効果が前向き研究で検証されることが望まれます。

今回で古賀からの学術係としての抄読会のご案内は最後になります。
抄読会にご参加頂き一年間、充実したディスカッションを頂きまして大変ありがとうございました。
4月からは櫻井先生にご担当頂く予定です。
来月の抄読会は、4月27日(水)19時〜です。